【あん】感想や考察:魂に優しく甘い映画「あん」樹木希林さん主演

こんにちは、お久しぶりの投稿ですね。

先日、女優の樹木希林さんがお亡くなりになり、平成最後の日本は大変に素晴らしい女優をひとり失いました。それと自分がお世話になった昔の先生の不幸が重なって、私はしばらく元気が無い状態です。がんばります。

ということで今回書くのは、樹木希林さん主演の映画「あん」です。この作品は、現在追悼上映もスタートしているようです。

観終わった感想は、「私も、あまり悲観せずに生きよう」。

評価は星4.5です。

映画の基本情報

【監督・脚本・編集】河瀬直美

【題名】あん

【原作】ドリアン助川の小説『あん』

キャスト・出演者

徳江:樹木希林

どら春でアルバイトをしたいという老女。手が少し不自由ですが、和菓子づくりがとても上手です。

千太郎:永瀬正敏

どら春の店長。甘いものは嫌いで、どら焼きよりお酒とタバコの方が好きなシブめの男性です。

ワカナ:内田伽羅

どら春に通う中学生。千太郎から失敗したどら焼き生地をもらっておやつにしています。

どら春のオーナー:浅田美代子

異質なものを受け入れることが出来ないようです。他人を見下す節があります。

ほか出演多数

あらすじ

縁あってどら焼き屋「どら春」の雇われ店長として単調な日々をこなしていた千太郎(永瀬正敏)。そのお店の常連である中学生のワカナ(内田伽羅)。ある日、その店の求人募集の貼り紙をみて、そこで働くことを懇願する一人の老女、徳江(樹木希林)が現れ、どらやきの粒あん作りを任せることに。徳江の作った粒あんはあまりに美味しく、みるみるうちに店は繁盛。しかし心ない噂が、彼らの運命を大きく変えていく…

(公式サイトhttp://an-movie.com/sp/より引用)

本編の感想

冒頭でも言いましたが、自分がつい最近世話になった方を亡くしたので、ちょっと感想が主観的になってしまうかと思います。気をつけますね(笑)

生きていく意味とか存在意義とか、そういうのを凄く考えてしまう時期に観たので、うーん、あんまり上手くまとまらなそうです。ご了承ください(笑)

よかったところ

樹木希林

やっぱり樹木希林さんの演技は素晴らしかったです。彼女にしかできない演技で、独特ですよね。樹木希林さんってとても魅力的で、演技力とか人柄とかそういうのの前に、彼女には「良質な魂」が存在してるんだと思います。

彼女の作品は、演技の際に参考にさせていただき一方的に大変お世話になりました。あの人の「上質な魂」から来る説得力は、多くの人を魅了するもので、国を越えて沢山の人々から高い評価を受けることにも頷けます。

言葉には、意味として・音声としての2種類があります。台詞には前者の要素も後者の要素も必要なわけですが、樹木希林さんの”言葉”にはそれを上回る圧倒的な”感情”があるように思います。但しこれは樹木希林さんが自分自身の心を込めているという意味ではなくて(確かにそれもあるとは思いますが)、鑑賞者がつい感情移入してしまうという意味です。

それから、美しさ。美しさというのは、単に整っていることではないのだと教えてくれる女優でもありました。

樹木希林さんは、(もちろん役柄もあるでしょうが)別に物凄く滑舌が言い訳でも、変に熱く訴えかけるような話し方をする訳でも、若々しくてシワ1つ無い顔な訳でも、体操選手並みの優れた身体能力を持っている訳でも、ありませんよね。

でも、彼女はとても美しい女優です。

本当に上手い人は、技術なんていらないんだそうです。名前は思い出せませんが、噺家がテレビで言っていました。上手いという評価には、芸をするその人のオーラやバックボーンで十分なんだと。それらが足りない奴が技術で追いつこうとするのだと、そう言っていたのが印象的でした。

樹木希林さんは正にこれですね。「本当に上手い人」、「本当に美しい人」。

そんな素晴らしい女優の次作が無いこと、とても残念で、悔しいことです。

どら焼きが美味しそう(笑)

この映画を観たら、美味しいどら焼きが食べたくなります。絶対です。マジです。

ぜひ鑑賞前にコンビニとかでどら焼きを買っておいて、鑑賞後どら焼きを食べたくなったタイミングで食べましょう!!

ポイントは、電子レンジでふんわりラップしてチンすること。大きさにもよりますが、大体15~30秒ですね。しっとりあったかになりますよ!

ひと手間加えてふわふわほくほくの、どら春の出来立てみたいなどら焼き、ぜひ食べてみてはいかがでしょうか!!

あー、この季節のあったかどら焼きいいね!たまんないね!!(書いてからどら焼き買いに行きました笑)

テンポの良さ

この映画、とにかくテンポが良いんです。人間を映さないシーンでも、カットの変わるテンポが調度良い。例えば桜を映すシーン。例えば千太郎が早朝に目覚ましで起きるシーン。長すぎないから飽きません。視覚、聴覚のどちらにも働きかけながらシーンを展開していく。これは監督のセンスですね。

※以下若干のネタバレを含みます。ご注意ください!

あまりよくなかったところ

全編通してとても良かったと思いますが、強いて言うならば、話がサクサク進みすぎて、ひっかかる部分が無かったことを挙げます。

大袈裟ですが「爪あとを残す」という言葉がしっくり来ます。これ自分の作り手側としての考えなんですが、どうせ作るなら一生忘れないでくれるくらい心に残ってほしいと思うんです。まあ客観的に見たらアマチュアらしいとか子供っぽい考え方とか言われそうですけどね。別に痛みを伴う必要はないんですが、でも精一杯つくったものなら、観たあとにお客さんの心に何かが残ってほしいとか、そういうものを作りたいとか、思いませんか?

私、映画はあんまり好きじゃありません。作品とかではなく、媒体として。何度も観られるし、多くの人が観ているし、いつ観ても誰が観ても同じものだからです。要は映画って、簡単に消費できるものなんですよね。

でも、演技をするということは、役に全身全霊で向き合うことだと思っています。多数の作品に出演する多忙なプロの方々からしたらそんなのやってらんねーよと思うかも知れませんが、でも理想はそうであるべきだと思うんです。私個人の考えですが、歌舞伎役者や俳優なんかが若くしてお亡くなりになるのは、役に魂を分けているからだと思っています。出演者が魂を込めて作った作品を、簡単に消費してしまうのが嫌で、あんまり映画が好きじゃないんです。だって、DVD観てる途中でトイレ行きたくなったら止めるし、お母さん入ってきたら巻きもどすし、映画館でもし集中出来なかったら借りたりしてもう一回観るでしょ?それが出来てしまうから、映画は何となく軽い気がするんです。なんか適当に観ているような気がしてしまいます。

で、前置き長くなりましたがこの作品。展開が速かったので退屈はしませんでした。でも、葛藤とか関係性とか、そういう「ひっかかる」部分は多少長く作ってほしかったなと思いました。それはこちらが考える時間でもあるからです。「ステレオタイプのこびりつく印象や、無知・理解不足から生まれる差別」というテーマの重さに対して、話の進め方がサラサラしすぎていて、急激に消費されてしまう映画において、印象が薄くなってしまいそうだなと思いました。

当事者にはもっと苦しみがあったり、周りの葛藤があったりするはずです。そこをもっと見たかったなと思いました。綺麗にまとまった映画ですが、私はまとまりきらない方がいい、というか、まとまらなくて当然だと思います。惜しかったと思いました。

印象に残ったシーン

終盤のシーンです。

樹木希林さん演じる徳江さんからのメッセージを受け取る場面。彼女の声に乗せて、木や花や色んなものを映すシーンがあります。

それは徳江さんがあんを作る時に話していた「あずきが通ってきた道」のように、「徳江さんが辿ってきたいのち」を映しているようにも感じました。ただ美しいだけではない、もっと自然の困難性とか厳しさとか、そういうものを表現しているのかなと思いました。徳江さんが通ってきた道も同じだと思います。徳江さんの現在の人間としての崇高さは、決して始めから存在したものだけではないのだと私は思いました。徳江さんの「あずきの声を聴くの。」という言葉。それはあんを作るために必要な手間であり、そして、彼女が想いを重ねて共感しながら作るための工程だったのかも知れません。

あのシーンは本当に、とてもとても綺麗で、複雑で、美しかったです。

この映画を一言で表すと

「魂に優しく甘い映画。」

先生が死んで、私が生きていることの意味とかを考えてしまう時期に観たせいもあると思います。あとは、出演者に故人がいることも。

生きている意味を、存在する意味を、優しく肯定してくれる映画でした。

「どんなものにも生まれてきたことには意味がある。」

この言葉に、なんだか切なくなりました。救われたような気持ちにもなりました。

そして、一日一日を丁寧に生きようと思わせてくれる作品でもありました。

まとめ

先生のお通夜に行ってきました。涙は浮かびましたが、流れませんでした。私、同世代の中では代表者であんまり皆の前では泣けないなと思っていたので、良かったです。まだ動いて話してくれるような気がして、全然実感が湧きません。

別のところにも行かないだろうし、たぶん生まれ変わったりもしないだろうけど、同級生や他の先生達と「みんなもう中学生じゃないけどさ、先生起きてきて、髪色派手な奴らとかツーブロとかはまた怒られそうだよね」なんて話して帰ってきました。それ言ってからほとんど泣きそうでした。

あまり沈まなかったのは、この映画のお陰かもしれません。私が辿ったのは綺麗な道ではないけど、でも、なにか意味があると良いなとか、そんなことを思った帰り道でした。

樹木希林さん主演の映画「あん」、簡単に消費せず、ぜひじっくり味わってほしい作品です。