合葬の感想や評価:心がもってかれる映画「合葬」のレビュー

こんばんは!

今回記事を書かせていただくのは、映画「合葬」です。この映画を観ようと思ったきっかけは、超単純でした。

ズバリ、「瀬戸康史が出ているから」。

私、休日は必ず撮りためたNHK「グレーテルのかまど」に出演する瀬戸康史を見てこんな弟が欲しいわあ~と溜め息をついているくらいには瀬戸康史が好きです。最近はドラマ「海月姫」のキスシーンで「う”ぅっ……(嬉)」と声が漏れました(笑)

また、瀬戸康史といえば2018年9月1日公開の映画「寝ても覚めても」や、ドラマ「透明なゆりかご」にも出演している、高い演技力を持った今注目のイケメン俳優ですよね!

それで、他の出演作品も見たいなあと作品を探していたところ見つけたのが今回の作品、「合葬」でした。

鑑賞後は、鑑賞前の瀬戸康史~♪というルンルンな気持ちは跡形もなく消え去り、とにかく、胸が苦しくなる作品でした。

個人的評価は星4です。

予告編や作品情報

【題名】合葬

【監督】小林達夫

【原作】「合葬」(杉浦日向子による漫画)

キャスト・登場人物

秋津極:柳楽優弥

彰義隊の構成員である青年。慶喜への忠義が厚く、熱心に彰義隊の責務にあたっていました。彼が砂世との婚約破談を申し出るところから物語が始まります。

吉森柾之助:瀬戸康史

養子縁組をした家から追い出され、帰る場所の無いところ極から彰義隊への入隊の誘いを受けます。彼は柔和な性格で、争いごとなどはあまり好きではないようです。

福原悌二郎:岡山天音

長崎で学問を積んだ、極の友人。妹である砂世との婚約破棄撤回のため、極を説得しようと奮闘します。時々気が大きくなりすぎることもありますが、まっすぐで憎めない人物です。

森篤之進:オダギリジョー

彰義隊の一員であり、上役。若い衆からは臆病者と評価されることがしばしば。穏健派ですが、青年達の意図を汲み幹部に反論することも。これにより、隊の者から粛清されてしまいます。

福原砂世:門脇麦

悌二郎の妹で、極の婚約者でした。極とは一度も言葉をかわしたことはありませんでしたが、心の中でずっと慕い続けていました。

かな:桜井美南

松源楼の女将の姪です。密かに極へ思いを寄せます。柾之助から思いを寄せられていることには気づいていないようです。

徳川慶喜:飴屋法水

十五代将軍徳川慶喜です。江戸城を明け渡し、退官して水戸へ謹慎処分となりました。このとき慶喜の見送りをした彰義隊の者たちは、残留を強く希望するようになります。

ほか多数出演

あらすじ

幕末。将軍徳川慶喜の身辺警護と江戸の秩序守護を目的とした武士組織・彰義隊は、大政奉還によってその存在理由を失った。しかし、彰義隊の構成員である青年たちはこの流れを認めず、依然として暗雲立ち込める江戸に居座っていた。

そのひとりである秋津極は、友人福原悌二郎の妹で婚約者である砂世へ別離を言い渡す。これは砂世への迷惑を案じてのことであったが、悌二郎は納得しなかった。

極は自らの決心を覆さず、さらに養子縁組をした家より追い出された青年、吉森柾之助をも隊に引きずり込む。悌二郎は極の上役である森篤之進に極の解任を求めるが、森の言葉に乗せられ、彼もまた隊列に加わるのだった。

その間にも新政府の兵士と隊士の対立関係は悪化し、隊は江戸警護の任を解かれる。これに従おうとしない隊の若者たちと政府軍との衝突を案じて、穏健派幹部は希望者の脱退を許可すると決定、異議を唱えた森は隊士たちに粛清される。そして、ついに新政府軍との一大合戦、上野戦争が始まる。酸鼻を極める戦闘によって、青春を謳歌していたはずの若者たちはつぎつぎと地にくずおれてゆくのだった。(Wikipediaより引用)

本編の感想

鑑賞中、特に後半は胸のあたりがなんだかずっと苦しかったです。ラストには泣いてしまいました。

よかったところ

ストーリー

まず、ストーリー。この映画は、杉浦日向子さんの同名漫画を原作にしています。杉浦日向子さんは、漫画家であり更に江戸風俗研究家という肩書きも持っている方だそうです。Eテレ「グレーテルのかまど」でやってました(笑)

亡くなった現在でも杉浦日向子さんの作品が高い評価を受ける理由として、まるで彼女自身が江戸に暮らす人のように、江戸の暮らしをそのままに、「こうだったんですよ」と確信を持って教えるみたいに表現する、ということが挙げられています。これは、この映画「合葬」にも言えることだと思います。

もちろん、刀の扱い方とか、女性の着物の裾や袖のさばき方とか、煙草の使い方、その他も本当に本当にリアルで、役者や演出の力は確実にあると思います。ただ、これだけのクオリティには原作の力が大いに必要だと感じました。まるで当時の生活様式で暮らした人のような、嘘っぽくない、説得力を感じます。研究者としてのレベルの高さが、リアリティを増すのでしょう。

あと、さすが松竹ですね!!!小道具とか衣装も完璧でいちいちクオリティ高くて、なんじゃこりゃ!すげえや!!と感動しっぱなしでした。一流って、こういうことを言うのですよね。

演出

3人の青年、極(柳楽優弥)と柾之助(瀬戸康史)と悌二郎(岡山天音)は、最初位置関係が分かりにくく、序盤は見分けがつきません。私おばあちゃんなので、登場人物の名前最後までおぼえられないんです。お前、どれだっけ?名前は??みたいな(笑) でも、今回はちゃんと覚えました。メインだけは!(笑)

私が1番感心したのは、人柄を表す細かな動きの差です。たとえば、三人が茶屋を出た後。水たまりの飛び越え方に注目です。極は水たまりを避けることなく突っ切ります。続く悌二郎も、同じようにバシャッと飛沫を飛ばしながら通り過ぎます。多分2人とも足はびしょびしょでしょう。では、それを追いかける柾之助はどうでしょうか。

超丁寧にぴょこぴょこ避けています。かわいい。なにこの子かわいい。

役者の姿形で人柄の差を表すのは比較的簡単です。衣装、髪型、顔つき、体つき、姿勢、装飾品など、見た目にわかる部分は多角的に表現できるからです。ただし、仕草で人柄を出す演出のためにはそれなりの工夫が必要です。このシーンでは顔も景色も映さず、足元だけのカットを若干長くしていました。このシーンで監督が狙ったのは、ほぼ確実に「キャラクター性の印象づけ」だったのだと思います。その意図が透けて見えていやらしい、違和感がある、という人もいるかもしれませんが、私はその違和感さえ監督の狙いでは?と思いました。

※以下、ストーリーにも言及しネタバレを含みます。読まずに次の見出し「あまりよくなかったところ」に飛んでも構いません!

魅力的な役者陣

瀬戸康史の好きなところは、顔もですが演技の上手さです。瀬戸康史は声が良くて色んな表情を作れる本当に上手い役者ですよね。かなちゃんにデレデレしたり、極をキッと睨みつけたり。困ったり笑ったりオロオロしたり怒ったり涙を流したり、作中でも表情がコロコロ変わって、片時も目が離せない役者です。

それから、門脇麦。私ドラマ「トドメの接吻」見てたんですけど、彼女本当に顔が綺麗ですよね。そして、「合葬」の中で彼女が努めた砂世。最初は「妹」としてのあどけなさ、少女的な要素も感じられる可愛らしさのある女性として登場します。その中にも結婚を断られたことによる絶望や悲しみなど複雑な感情を持ち合わせた、演じるのが難しい人物です。しかし終盤。新しい結婚相手に本当のことを話す彼女は、門脇麦ではなく砂世としての姿でした。少女らしさを孕んでいた表情は、妻としてふさわしい気品ある大人らしいものに変わり、魅力的で美しく映りました。

1番凄まじかったのは、極役の柳楽優弥です。何と言っても、彼の迫真の演技はラストシーン。ひたすらに自分の腹を刺し続ける姿。息は途切れて、普通の呼吸ではない。苦しみながらも信念をもち一心に刺し続ける姿。じっとりと黒黒しい雰囲気を纏い、疲労困憊の柾之助が真夜中に目を覚まし異変に気がついたことにも納得が行きます。そして、柾之助が彼を介錯せずにその場を逃げ出してしまうことにも。私は涙が出ました。口元を抑えて、声を殺して泣きました。

私は、人の心を動かせる作品が本物だと思います。それは映画においては、役者の力も含まれます。この映画は、役者の凄まじい熱量によって完成したものなのだと思います。

あまりよくなかったところ

台詞に文語的な(おそらく当時のそのままの)言葉を沢山使っていて、古文とか苦手な人にはちょっと、鑑賞自体が苦しいです。前情報が多く必要になるのは、不親切だと言われてしまいそう。ストーリーも、最低限の歴史の知識が無ければ飲み込みが遅れてしまうと思います。あらすじを読んでもわからないかも……。

それから、ところどころに点在する、語り部が話す「昔ばなし」。ストーリーにはあまり関係ないの?何のためのシーン??という、疑問が残る部分になってしまいました。点在する飛び飛びのそのシーンで、話が繋がっているわけでもなさそうですし。箸休めですかね?ちょっと意図を読むのが難しかったです。原作を読んでみると、もしかしてまた違ってくるのでしょうか?

でも、作品全体にうっすらと漂う独特な暗く冷たい雰囲気には合っていました。

この映画を一言で表すと

「もってかれる映画」。

暗いお話ですが、ストーリー、演出、役者などにとてつもないエネルギーを感じる映画です。心が半分持っていかれました。

まとめ

まとめると、「せづない」。

これ、東北の方言なんですけど(私、東北出身なのです!)、標準語の「切ない」に更に「辛い」とか「胸が苦しい」という意味も含みます。鑑賞後に「あんやはぁ、せづね。(あぁもう、胸が苦しい)」と思わず方言が出てしまうほどでした。

観たあと、動き出すまでに若干の時間を要しました……。

凄まじい熱量と圧倒的な演技力、この世に二つと無い、このメンバーならではの作品だと思います。是非鑑賞してみてください!